乳腺炎

  • 2022.10.20

授乳中や断乳後、その他の時期にも乳腺炎を発症することがあります。乳腺炎とは乳腺組織の炎症であり、細菌に感染して起こる場合と、そうでない場合があります。感染症診療実践ガイド2011の「急性・慢性乳腺炎」を担当させていただいたことがあり、少し専門的になりますが、代表的な状態について説明させていただきます。

  • うっ滞性乳腺炎

授乳中の女性の10人に1人程度の割合で起こると報告されており、初産婦さんに頻繁にみられます。症状は、乳房の痛み、腫れ、熱感であり、発熱を伴う場合もあります。治療法は、乳頭を清潔に保ち、適切な搾乳や授乳、及びマッサージ、クーリングをお勧めします。痛みが強い場合は、消炎鎮痛剤を内服して上記を行ってみてください。ご自身での搾乳やマッサージが難しい場合は、お近くの助産院さんなどでご指導いただいている方も多いです。

  • 化膿性乳腺炎

うっ滞性乳腺炎よりも強い乳房の痛み、発赤、腫れ、悪寒を伴う38℃以上の発熱や腋窩リンパ節の腫れが見られます。乳頭の傷からの感染や、うっ滞した乳汁の逆流によって生じると考えられています。膿瘍(膿(うみ)の塊)を認めた場合は、針の検査を行ったり切開したりすることがあります。抗生剤の内服や点滴を行います。

  • 慢性乳腺炎

20~40歳代の女性に起こり、再発したり、治療が長期化したりすることがあります。

いくつか代表的な病態が確認されています。

1)乳輪下膿瘍

乳腺炎の合併症として起こり、殆どが、非授乳期の乳房感染の後に生じます。妊娠歴のない若い女性に発症し、陥没乳頭を併発することが多いとされています。糖尿病の方や喫煙者に再発率が高いと報告があります。症状は、乳輪下の痛みを伴うしこり、乳輪周囲の皮膚の鮮紅色への変化・腫脹、乳頭分泌などです。治療は抗生剤投与や切開排膿が第一選択となりますが、苦労することがあります。

2)肉芽腫性乳腺炎

原因不明で、稀な、良性腫瘤を形成する疾患です。妊娠可能な年代の女性に多くみられ、特に授乳から数年以内の経産婦に発症する頻度が高いです。通常は非乳輪領域に生じ、腫瘤として触知されるので、乳癌と誤診されることがあり、針生検で診断が必要です。

コリネバクテリウムの関与が報告されていますが、抗生物質の有効性は報告されておりません。ステロイド投与に関しては、臨床の現場では投与により軽快を認めることがあるため、行っている施設も多くあります。ステロイドの減量中に再発する場合もあり、投与期間が長期化することも避けられないため、副作用についても説明した上で治療選択することが必要です。

乳腺炎は予防については、陥没乳頭など、構造上なりやすい場合や授乳中などなりやすい時期があるため、乳頭の清潔を通常より強化すること、異変に気付いた際には早めに治療を開始することが大切です。

簡単に治るものと期待されることが多いのですが、体の作りに起因するものや、基礎疾患の存在や、分泌物の管理に苦労したりし、原因除去が困難な場合は長引くことがあります。丁寧に説明し、治療選択を行うこと、精神的にもサポートさせていただくよう診療に臨んでいます。