「くもをさがす」を読んで

  • 2023.12.16

今年は例年にない暖かい年の瀬となっておりますが、いかがお過ごしでしょうか。先月はひどい風邪をひいてしまい、なかなか咳が切れずに皆様には大変ご迷惑をおかけしました。ブログの更新も遅くなってしまい申し訳ありません。診察後に「先生もお大事に」と優しいお声がけをいただきまして、ありがとうございました。とても嬉しかったです。

悪いことは重なるもので、家族の入院も介護もあり、心身共に鍛えられた時間でした。気分転換も出来ない状況でしたが、その間5冊ほど新しい本を読みました。本当は読書せずに早く寝れば早く風邪が治ったに違いないのですが、咳が出て寝付くのも困難でしたので、深夜・早朝に読んでいました。厳しい現実から離れるためには必要な時間でした。読んだ本の4冊はこれまで読んだことがある好きな作家さんの作品でしたが、1冊は西加奈子さんの「くもをさがす」というカナダでの乳がん治療体験記を拝読しました。とっても興味深かったので、是非読んでみてください。

イギリスではNHS、アイルランドではHSEという医療制度があり、私の留学時代も医療費はかかりませんでした。留学時代にイギリスのニュースでハーセプチンという乳がん治療薬がNHSで使えるようになった(患者さん負担は無料)というニュースを見たことがあり、税金が高い分医療は手厚いものだと驚いた記憶があります。

日本で治療されている方は医療システムが違うので驚くと思いますが、西さんの治療ではフィルグラスチム(グラン)という抗がん剤治療で下がった白血球を上げる注射をセルフ打ち、また手術当日に退院という日本では考えられないような現状がつづられていて興味深かったです。母国語でのコミュニケーションが出来ず、医療システムの違いもありますが、ご本人がたどる治療経過と心境の変化、家族の体調不良などと治療中に起こる大変な事柄をそのまま真っ直ぐに書かれておりました。乳がん治療に携わる一医療者としては、より患者様の大変さやご不安の原因を痛感することができましたし、一人の同世代読者としても心を打たれるシーンが多かったです。

抗がん剤治療を終えた時の気持ち、目の前の大きな目標を達成した後のその先の恐怖を丁寧に表現されていて、さすが直木賞受賞の作家さんで、このように文章で表現出来たらどんなによいかと思うほど、生きることについて伝えられており、感銘を受けました。乳がん治療中の方やご家族はもちろん、乳がん検診を受けたことのない方にも是非読んでいただきたい本だと思いました。

この本を読んで改めて、乳がん検診を受けていただきたいと思いました。12月は全国的に乳がん検診受診率が減ってしまう傾向にあるようです。12月に発症しない訳ではなく、一日も早く検査を受けていただくほかご自身を守れる方法はありません。今年中に検診を終わらせて新たな気持ちで新年を迎えていただきたいです。